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『機械』(きかい)は、横光利一の短編小説。新手法を駆使した実験小説で、文学的独創性を確立し注目された横光利一の代表的作品である〔〔〔。あるネームプレート製作所で働く「私」の心理を通して、そこで起った作業員同士の疑心暗鬼と諍いから重大な結末に至るまでの経過を独白する物語。段落や句読点のきわめて少ない独特のメカニックな文体で、機械のように連動する複雑な人間心理の絡み合いが精緻に描かれ、一つの抽象的な「詩的宇宙」が形成されている〔。一人称の「私」以外の「四人称」の「私」の視点を用いて、新しく人物を動かし進める可能の世界を実現しようと試みた実験小説である〔横光利一「純粋小説論」(改造 1935年4月号に掲載)。横光利一『愛の挨拶・馬車・純粋小説論』(講談社文芸文庫、1993年)に所収。〕〔。 1930年(昭和5年)、雑誌『改造』9月号に掲載され、翌年1931年(昭和6年)4月、白水社より単行本刊行された。文庫版は新潮文庫、岩波文庫などから刊行されている。 == あらすじ == 私は、ネームプレート製作所で働いている。この製作所の主人は、40代ながら子供をそのまま大人にしたような無邪気さを持っていて、はじめ私は主人が狂人ではないかと思うほどだった。私は、九州の造船所を出て上京し下宿を探していたところ、ここの住み込みの職場を紹介された。しかし、人体や脳に影響がある危険な薬物を扱う仕事を任され、そのうち辞めようと思いつつも辛抱していた。私は、せっかくだから仕事の急所を全部覚えこんでから辞めようと思っていた。前からここで働いている軽部は、そんな私のことを間者だと勘違いしているようだった。軽部は嫌がらせをしてきたが、私は無視していた。 ある日、私は、すぐに金を落としてしまう主人に付添い地金を買いに行き、帰りに主人から赤色プレート製法の特許を売るかどうかを相談された。それから何となく私は、主人のためになるように思うことが生活の中心となった。そして、主人は、黒色を出す研究を自分と一緒にやってみないかと私を誘った。私は、主人から信用されていたことに心の底から感謝を感じ、私も軽部のように主人第一の信徒のようになった。私は、地金に様々な薬品を試練していくうち、今まで知らなかった無機物内の微妙な有機的運動の急所を読みとることができてきた。これが、いかなる小さなことにも機械のような法則が係数となって実体を計っていることに気づき出した私の唯心的な目醒めの第一歩となって来た。 しかし、私は、それまで主人以外は誰も入ることが許されなかった暗室へ自由に出入りする権利を得た。しかし、そんな私に対する軽部の憎しみが増し、私は激しい暴力を振るわれた。私は、軽部を暗室へ連れていって、化学方程式を細かく書いたノートを示し、これらの仕事が化学方程式を読めない軽部に無理なことを納得させた。軽部は、私に逆らわなくなった。 ある市役所からの注文で、ネームプレート5万枚を10日で作ることとなり、主人の友人の製作所から応援の職人・屋敷がやって来た。屋敷の鋭い目つきに、私は屋敷がここの製作所の秘密を盗みに来た廻し者ではないかと思った。その一方で、屋敷と言葉を交わすうちに親しみも感じた。作業5日目頃の夜中、ふと目を覚ました私は、暗室から出てゆく屋敷を見た。しかし、それが私には夢だったのかもしれないとも思うのだった。私は、疑いの目で屋敷と目を合わせ、方程式を盗んだのかと目で問うてみたりした。 あるとき、私は、屋敷に自分が軽部に間者だと思われて危険な目に会ったことを打ち明けることで探りを入れてみた。屋敷は、私に疑われていることを知っていて笑っていた。私は、屋敷といろいろ話すうちに、屋敷の優秀さに魅せられ、自分が馬鹿にされているような気もした。 仕事も終わりかけていたある日、軽部が屋敷に暴力を振るい、ねじ伏せていた。私は、しばらくユダのような好奇心でにやにやと屋敷を眺めた後、軽部に止めるように言った。軽部は、屋敷が暗室へ入ったのを見て怒り、屋敷は弁解していた。軽部は、私も屋敷と共謀していると言い出して殴りかかってきた。屋敷は、その隙に軽部を殴り反撃に出たが、再び強い軽部にねじ伏せられた。背後にいる私を警戒した軽部が、今度は私に向かい出した。私は、一人では負けるので、屋敷が起き上がるまで、軽部にされるがままにさせていたが、起き上がった屋敷は、軽部を殴らずに私に殴りかかってきた。私は、何もしていないのに、二人に殴られるという理不尽な目にあったが、そのうちみんな疲れ果てて収束した。 屋敷は、ああしなければ収まらなかったからだ、許してくれと私に謝った。私は、屋敷の智謀を皮肉り、暗室の方もうまくいったのだろうと言った。屋敷は、君までそんなことを言うようでは軽部が私を殴るのも当然だと笑った。私は、なるほどと思い、それならば屋敷が私を殴ったのも私と軽部が共謀したからだと思われ出して、いったい本当はどちらがどんな風に私を思っているのかますます私にはわからなくなり出した。私ひとりにとって明瞭なこともどこまでが現実として明瞭なことなのか、どこでどうして計ることができるのであろう。それにもかかわらず、私たちに間には一切が明瞭に分っているかのごとき見えざる機械が絶えず私たちを計っていて、その計ったままにまた私たちを推し進めてくれているのである。そうして、私たちは、お互い疑り合いながらも仕事を仕上げた。 翌日、主人が私たちの仕上げた製品の代金を帰り道ですべて落とし紛失してしまった。私たちは、疲れが一気に出て動けないほどだった。軽部が酒を飲もうと言い出して、その夜3人は仕事場で車座になって酒を飲んだ。目が覚めると屋敷が死んでいた。重クロム酸アンモニアの溶液を水と間違えて土瓶の口から飲んだのだった。疑われたのは軽部だった。しかし、全く私が屋敷を殺さなかったとどうして断言できよう。私はもう私が分からなくなって来た。私はただ近づいて来る機械の鋭い先尖がじりじり私を狙っているのを感じるだけだ。誰かもう私に代って私を裁いてくれ。私が何をして来たかそんなことを私に聞いたって私の知っていよう筈がないのだから。 抄文引用元・出典: フリー百科事典『 ウィキペディア(Wikipedia)』 ■ウィキペディアで「機械 (小説)」の詳細全文を読む スポンサード リンク
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